2013年2月4日月曜日

サムスン電子一人勝ちの仕組み:ビジネスフレンドリー政策




●欧州最大の家電見本市「IFA」開幕、最新タブレットからレトロなラジカセまで
世界的に快進撃を続ける韓国サムスン電子〔AFPBB News〕



JB PRESS 2013.02.04(月) 玉置 直司
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37059

どうなる? サムスン電子への優遇税制
日本企業も羨む低い法人税、次期大統領は据え置くと言うが・・・

 2013年2月25日に発足する韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権では、これまでの大企業に対する優遇税制の存廃議論が浮上する可能性がある。
 朴槿恵氏自身は法人税率そのものは据え置くことを示唆しているが、各種優遇税制の恩恵が一部大企業に集中しているとの指摘には神経をとがらしている。

■安い電気料金、ウォン安と並ぶ「ビジネスフレンドリー政策」

 低い法人税率は、安い電気料金、ウォン安と並んで日本企業が羨む韓国の「ビジネスフレンドリー政策」だった。
 昨年秋からウォン高が急速に進んでいることに加え、税制にも変化が出るのか。
 日本企業にとっても気になる点である。

 「サムスン電子はどうして2兆ウォン(1,667億円:1円=12ウォン)を返してもらうのか」――。
 最近、大手総合週刊誌「週刊朝鮮」(2013年1月21-27日号)にこんなカバーストーリーが掲載された。
 韓国の最大最強企業であるサムスン電子の法人税に関する記事だ。
 同社は2012年12月決算で売上高201兆ウォン、営業利益29兆ウォンという過去最高の決算を記録した。
 韓国の法人税率は22%(地方税を合わせると24.2%)で、本来なら6兆3000億ウォン程度の税金を払う必要があるが、同誌によると
 「これよりずっと少ない税金だけを払う公算が大きい」
という。

 同社は2011年12月決算でも16兆2400億ウォンもの営業利益を上げた。
 法人税は3兆5000億ウォンのはずだが、実際にはいくらの法人税を支払ったのか。
 同誌は「独自取材」の結果として「2兆ウォン程度だった」と見ている。

■サムスン電子が実際に払う法人税はいくらか?

 この数字が正しいとするならば、法人税率は12%弱になる。
 同誌は
 「3年ほど前に調査した際にはサムスン電子に対する法人税実効税率は11%程度だった」
との野党国会議員のコメントも掲載している。

 同誌は一方で、実際にはこれほどまでには低くないとの見方も示している。
 「大企業に対する税額控除が行きすぎだという理由で政府が法人税最低限税率(15%)を導入したため」
だという。
 この規定が適用された場合にサムスン電子は今年、
 「2兆ウォンを返してもらう」
という。

 実際にサムスン電子がいくらの法人税を払った(払う)のかは、同誌の記事でも分からない。
 ある会計士は
 「サムスン電子は世界中で事業を手がけており、韓国よりも法人税率が低い国でも法人税を払っているはずだ。
 韓国での法人税率は15%より低いことはないはずで、11%とか12%とかいうのは、世界中で払ったすべての法人税と連結利益の比率を計算した数字ではないか」
と推測する。

 はっきりしているのは、22%という法人税率よりもずっと安い額だということだ。

 どうしてこんなことが可能なのか。
 同誌によれば「徴税特例制限法」のためだという。
 韓国では1965年にこの制度が導入され、細部については変更を重ねてきた。
 経済活性化のために、特定の項目について税控除をするという内容だ。
 現行制度では特に大きな控除対象となっているのが研究開発費だ。
 研究開発費や研究のための設備投資などについて総額の20%を控除の対象にするという制度だという。
 さらに「臨時・雇用創出投資税額控除」という項目も、特に大企業には大きな優遇税制だという。
 
■「サムスン電子10.5%、シャープ36.4%」では勝負にならない

 2010年2月に日本の経済産業省が産業構造審議会に提出した「情報経済分科会の論点(案)」という資料が日本の電機業界などで話題になった。
 2008年12月決算を基準としたサムスン電子の実質税負担率が10.5%、
 シャープ(2008年3月期)のそれが36.4%であると指摘し、
 「実質税負担率の差から生じるサムスンの余裕資金は1600億円」
と算出した。
 「シャープの亀山第2工場の投資額約1500億円をも超える」と説明し、世界最高水準の日本の法人税負担が日本企業の競争力に大きな影響を与えていると指摘した。

 日本でも法人税率は引き下げになったが、それでも韓国と比べて断然高水準であることは明らかだ。
 さらに優遇税制まであるとすれば、その差はさらに大きくなる。
 「週刊朝鮮」の報道の通り、ただでさえ低い法人税率なのに、さらに2兆ウォンもの「恩恵」を受けるということは、国から、半導体や液晶の工場を毎年提供してもらうようなことと言えなくはない。

 問題は、韓国でこうした税制が今後も続くのかどうかだ。
 朴槿恵氏は、法人税率に対していったん、現行のまま据え置き、増税しない方針を打ち出している。
 ただ、
 「優遇税制については与党内でも見直すべきとの声があり、流動的だ」(韓国紙デスク)
という。

 というのも、当初、徴税特例制限法が導入されたときには中小企業の振興などに重点が置かれていたが、徐々に内容が変わり、現行制度は
 「一部大企業にとって大変有利な税制だ」(韓国紙デスク)
との指摘が多いためだ。

■大企業ばかりが巨大になった李明博大統領時代への反発

 研究開発や雇用創出投資への控除は、研究開発費や投資額が大きい一部大企業に対する優遇だと言われても仕方がない面もある。
 2008年2月に就任した李明博(イ・ミョンバク)大統領は、「ビジネスフレンドリー」を前面に押し立てて経済再生を図った。
 大企業をより強くすることで経済全体のパイを大きくし、国民全体の雇用や所得を増やそうという狙いだった。
 法人税はその1つの武器でもあった。
 ところが、サムスン電子や現代自動車など一握りの大企業だけがさらに巨大になっただけで、
 雇用も期待ほどには増えず「経済両極化」だけが進んだとの批判を浴びた。
 財閥や大企業に何らかの規制をかけるべきだという声が強まり、「経済民主化」が大統領選挙の大きな争点になったのだ。

 2012年12月の大統領選挙でも、野党候補の文在寅(ムン・ジェイン)氏が
 「法人税率は22%だが、サムスン電子が実質的に納付している法人税率は11%程度だ。
 財閥や大企業に対する各種の税金減免などをやめれば、中産層や庶民、中小・自営業者に対する税負担をまったく増やさなくても必要な財源を準備することができる」
と述べている。
 野党も、法人税率そのものを引き下げろというのではなく、一部大企業に恩恵が集中している優遇税制の廃止・縮小を主張したのだ。

 より現実的な視点から大企業に対する優遇税を再考すべきだとの声も出ている。
 韓国を代表する経済ジャーナリストである宋煕永(ソン・ヒヨン)朝鮮日報論説主幹は最新著『絶壁に立つ韓国経済』で、サムスン電子などへの優遇税制の効果について疑問を投げかけている。

■同じ税制優遇なら電子企業より病院に回した方が雇用が増える

 10億ウォンを投資した場合に何人分の雇用が増えるかについての統計を引用し、電機・電子5.2人、自動車8.6人、精油1人に対して教育・保険 18.5人、ホテル16.5人、流通16.1人だとして
 「電子企業に与えている税制優遇10億ウォンを回収して病院に回せば3倍以上も雇用が増えるという計算だ」
と指摘している。

 一見すればかなり荒っぽい主張にも聞こえるが、言わんとすることは、産業構造や経済環境の変化に合わせて、大企業、それも輸出型製造業ばかりを優遇してきた政策から転換して雇用拡大を目指せということだ。
 もちろんサムスン電子などにも反論があるはずだ。
 税制優遇措置があったからこそ大規模な研究開発や設備投資を続けることができ、その結果として世界市場での競争力を高めることができたことは確かだ。
 雇用創出効果についても、比較的高賃金の雇用を創出してきたという自負があるはずだ。

 次期政権はまだ、優遇税制に対して明確な見解を表明してはいない。
 ただ、朴槿恵氏は大統領選挙期間中に「経済民主化」を重点政策に掲げてきた。
 それ以上に、社会保障費の思い切った増額を最優先に掲げており、その財源探しが当面の課題にもなっている。

■新政権の誕生で韓国でも大企業の税制優遇措置が曲がり角

 つい数年前まで、世界は「減税競争」を演じていた。韓国に限らず、さまざまな国が、法人税を引き下げ、優遇税制を増やして企業を支援し、その結果として経済成長や雇用創出を狙った。
 ところが、最近は、財政悪化や社会保障費の増大、さらに一部企業に対する「儲け過ぎ批判」もあって、法人税引き下げを主張する声はどんどん小さくなっている。

 「成長重視一辺倒からの転換」
を掲げる朴槿恵政権の登場で、韓国でも大企業に対する税制優遇措置が大きな曲がり角を迎えていることは間違いない。





【 見えない歪み 】


_

0 件のコメント:

コメントを投稿